第9回東久留米稲門会雑学塾
             
*会場での配布資料をホームページ用に編集してあります
平成15年6月1日
成美教育文化会館


中高年の登山とその生理学


東久留米稲門会
 納見 明徳
表紙写真  レーニア山
シアトル東方にそびえるワシントン州の最高峰(4392米)
在米邦人からタコマ富士と呼ばれ、数本の氷河がある
平成10年夏、62才で登頂した

         
目次
1. 登山の三倍の楽しみ方

  1.計画・準備
  2.実践
  3.記録・反省
2. 中高年登山の三つのポイント
  1.夜行を使わない
  2.初めはゆっくり歩く
  3.軽い装備
3. 中高年の安全登山のために
   中高年者の体力低下、三つの特徴  
     1.行動体力(身体能力)が低下する
     2.防衛体力が低下する
     3.体力の個人差が大きくなる
    4.メディカルチェック
    5.体力トレーニング
4. 登山の生理学
  1.山でバテる原因
  2.暑さの生理学
  3.発汗の生理学
  4.寒さの生理学
  5.高山病


 
 はじめに自己紹介
 s.30年教育学部社会科に入学、s.32年3月2年生の終わりに早大山の会創立と同時に入会、
 s.32年夏、未知の知床半島を探査、卒業後も登山を続け、平成4年日本百名山完登
 海外登山
 s.47年ベネズエラ・アンデス、ピコ・ボリパール登山、コロンビア・アンデス、バンデアスーカル、
 エルコンカーボ登頂、h.5年オレゴン、フッド登頂、h.8年モンブラン登頂、h.10年レーニア山登頂


       
1.登山の三倍の楽しみ方
           
1. 計画

  山を選び、コースを参加者のレベルで設定し計画書をつくる
    情報:ガイドブック、山と渓谷、岳人、1/25000地図、市販の山地図、現地照会、
        経験者の友人・知人から
2. リーダーを決める
3. 係の分担

      装備・器具係、食料係、医療係、会計係、記録係
4. 準備
      計画書、携行品リストに基づいて準備
5. 山行に課題をもつ
      写真、生物(高山植物・小動物・昆虫など)、気象、山村民族など
  例、エーデルワイスクラブ:創立s.30年 女性だけの登山クラブ、山行4300回
           山旅、植物、カメラ、コーラス、海外研究、探鳥、スケッチ、平日、
            スキーの9部があり、好きな部に入る、会員250名
   早大山の会:創立s.32年 スポーツアルビニズムでなくアカディミックな山の会をめざす
            生物、地層、資料、気象、厚生の5部の一つに必ず入部、
             現在 OB 330名、平成14年に45周年記念パーティ開催
6. 文学性のある山岳書10選
   「カンチェンジュンガをめざして」  パウル・バウアー      実業之日本社
   「処女峰アンナプルナ」       モーリス・エルゾーグ    白水社
   「エレベストその人間的記録」    ウイルフリッド・ノイス    文芸春秋新社
   「星と嵐」               ガストン・レビュファ     白水社
   「山靴の音」             芳野満彦           二見書房
   「北八ッ彷徨」            山口輝久           創文社
   「山に憑かれた男」         加藤喜一郎          文芸春秋新社
   「若き日の山」            串田孫一           実業之日本社
   「日本百名山」            深田久弥           新潮社
   「山への挑戦」            堀田弘司           岩波書店
7. 山の食事
  行動中に小刻みに食べる
  のどに通りがよいものを用意する
  雨や寒い時は暖かいもの、天気のよい時や暑い時は冷たいもの
  シヤリバテ(体内の血糖値が著しく低くなる)になる前に栄養を補給する
    行動食: チョコレート、アメ、ようかん、ビスケット、ドライフルーツ(レーズン、プラム)
          バナナ、ドーナツなど
    非常食: チョクレート、ハチミツ、コンデンスミルク、甘納豆、ようかん、
          ポタージュスープサラミソーセージなど保存性がよく、
          高エネルギーで調理の必要がないもの
    昼食:  山行計画に合わせる
8. 山の怪我・病気と治療
  スリキズなどの外傷、打撲、捻挫、骨折
    消毒液マキロン、オキシフル、ヨードチンキ、バンドエイド
  虫さされ ブヨ、アブ、蚊
    虫除けスプレー、蚊取り線香、ムヒ、キンカン
  日焼け
    山は紫外線が強く、日焼けは火傷の一種」
    顔や首すじなどに日焼け止めクリーム(コバトーン・オイルフリーローション50、
      UVガードフェイスミルク50)をぬり、日焼け防止する
    日焼けした局部は氷、冷水、カーマインローションで冷やす
  日射病
    頭や首の部分に直接、日光が当たり起こる
    予防に帽子をかぶり、水分を十分とる
  熱射病
    日陰でも高温、多湿、無風で周囲の温度が上がることで起こる
  雪盲
    サングラスで目を保護する。紫外線の強い高山では曇っていても雪山氷河で
    雪盲になる
  靴ずれ
    最近の山靴は足にフイットする。注意することは靴下選び、靴ひもの締め方
  凍傷
    手、足、顔など露出部がぬれて低温にさらされると凍傷になる
    約42度cの温水で局部を温める
  凍死 
    低体温症 問いかけにきちんと答えられない。言葉の不明瞭、全身の倦怠、
    脱力感、よろめきながら歩く、眠気などの症状。さらに障害が進むと寒さから
    身を守ろうとしなくなり、思考力が低下する。幻聴、幻視が現れる。
    狂騒状態になる。直腸で測った体温が30度c以下になると全身機能の低下が
    急速に起こり、瞳孔は開き、呼吸停止、心停止に陥る
  落雷
    夏場、積乱雲の発生で起こる熱雷、寒冷前線の通過時に起こる界雷があり、
    行動中であればより低い安全そうな場所で待避する
9. 気象
   天気図を読めるように訓練する
   天気のことわざを知る。星のまばたきが多いときは雨。遠い物音がよく
   聞こえるときは雨。小鳥が活発に囀りだせば晴れる
10. 実践
   実際の山歩き
11. 記録・反省
   山行記録や写真を整理し、報告書を作成する
   ビヤホール、居酒屋やメンバーの家などで反省会を開く

 
2.中高年登山の三つのポイント
         

1. 夜行を使わない。十分な睡眠が良いコンディションをつくる
2. 歩き方

   歩幅は短く、初めの1-2時間はゆっくり歩き、徐々にマイペースに、最後の1時間は
   気合を入れる。歩き出して15-30分で発汗の有無から衣服の調節を行い、
   ザックが体にフイットしているか確   かめ、ザックのベルト、靴ひもの締め具合は
   どうかチェックし、その場か1回目の休憩で調整する。
   呼吸は腹式呼吸、鼻から息を吸い、口をすぼめて息を吐く。50分歩いて5-10分休憩
   を繰り返す。列の順序は、先頭はサブリーダー、2-3番目に初心者をおき(サブリーダー
   は初心者の動きを見てペースをコントロールする)列の最後はリーダー。
   数日山行では、初日は歩行時間を3時間、2日目は5時間、3日目は8時間とだんだん
   多くする。休憩は5-10分くらいにする。その間、呼吸を整える。疲労を回復
   させるために食べ物、水分を補給、屈伸運動やストレッチ体操を行うのもよい。
   リックを背負ったまま立って休憩することもある(立ち休み)
   下りはゆっくりと着地して膝の関節を保護する。下りに折りたたみのボールを使うと
   膝にかかる負担を軽減することができる。
3. 軽く機能の優れた装備
  登山の三種の神器  靴 リックサック 雨具
    靴  なるべく軽いもの 1.ハイキング・トレッキング用登山靴 800g
                   2.夏山用登山靴
                   3.雪山用登山靴  1400g  (昔の革靴2100g)
    リックサック        1. 20L ディバック
                   2. 40L(2-3泊小屋利用)
    雨具  上下セパレーツタイプレインスーツ
            むれの少ない透湿性防水素材  例 ゴアテックス
    その他   
      衣類 下着類     網シャツ 半袖・長袖アンダーシャツ ブリーフ ステテコ 
        濡れても暖く、乾きも早い吸汗速乾性のもの
            (ウイックロン、ダクロン、オーロン)
      ヘッドライト リチウム電池使用 水筒 ペットボトル使用 
      コンロ、カートリッジ式LPガス 弱点 火力が弱い


3.中高年の安全登山のために

                 
 中高年者の体力低下の特徴
1. 行動体力(身体能力)が低下する
   1.平衡性(バランス)20才を100%として60才で30%になり、転倒、転落、滑落の
     事故をまねく
   2.脚筋力 60才で50-60%になり、20才をピークで1つ年をとるごとに1%低下
      歩く速さ、時間、距離、荷物の重さなど負荷を20才の半分とみる
   3.柔軟性(跳躍力)50%になる
   4.全身持久力 60%
   5.敏捷性 70% バランスを崩したときに瞬時に体勢を立て直す力
2. 防衡体力が低下する
   激しい運動、環境(気温、気圧)の変化、物理的な衝撃、病原菌の侵入などに対する
   抵抗力の低下、心臓の能力の低下、血圧が上がりやすくなり激しい運動に耐えられ
   なくなる、暑さ寒さに対する体温調整能力が低くなる、疲労しやすく回復が遅い、
   内臓が弱くなる、骨が脆くなる、関節が弱くなる転倒による骨折
3. 体力の個人差が大きくなる
   集団登山は避けたほうがよい、メンバー数名に1人はサポートできる人をつける 
   中年者のトラブルの種類
     1.筋肉痛  2.下りで脚がガクガクになる  3.膝の痛み  4.登りが苦しい
 海外高地へトレッキングツアーでの中高年登山者の留意点
     (増山茂医師作成 産経新聞・H14.3.6)
   見えは捨てる。あなたは昔と今では別のクライマー
   現在のトレーニングによってあなたの今の力は決まる
   持病があれば主治医に対策を確認しリーダーに報告する
   リーダーに素直に従う。 他人の忠告に耳を傾ける
   不調になったら正直に申告する。意地を張らない
4. メディカルチェック
  視診と触診
  一般検査  GOT,GPT,γ-GTP,コレステロール、血糖値、尿検査、肝臓の検査、
          白血球、赤血球、ヘモクロビン、血漿板、尿検査
  負荷心電図、心エコー、ラジオアイソトープ、心臓カテーテル
5. 体力トレーニング
  トレーニングの目的は筋肉をきたえ、心肺機能を強化し酸素の摂取量を大きくする
  ことで快適な登山をするのに必要な体力をつくることにある
  登山のためのトレーニングは低山ハイキングの様な山歩きが一番である
  トレーニング効果
  エネルギー代謝をおこなうミトコンドリアの数や代謝に必要な酸素が増える
  酸素を運搬する筋肉内の毛細血管の数が増える。これらによって筋肉での乳酸の
  産生が減って、溜まった乳酸の除去率が増えることが知られている
  糖(グルコース)の貯蔵型であるグリコーゲンの貯蔵量が増加し、エネルギーの枯渇
     を予防する
 モンブラン登頂(H.8年)の時のトレーニングの例
  1.雪と岩登りのトレーニング・3月の八ヶ岳、赤岳でピッケルとアイゼンワーク
  2.高度順応 4.5月の残雪期富士山へ2度、アイゼンワークも兼ねて、7月の
    富士山の頂上小屋に宿泊
  3.長距離縦走 5月秩父・甲武信岳から金峰山、昼食をとらない訓練

4.登山の生理学
                     
1. 山でバテる原因
  1筋肉疲労
    筋肉疲労は筋肉に乳酸がたまるからで、その筋肉のエネルギーの源のブドウ糖は、
      ブドウ糖・酸素--水、二酸化炭素
      ブドウ糖・酸素不足--乳酸が筋肉にたまり、筋肉疲労をおこす
    筋肉にできた乳酸は血流で肝臓に運ばれブドウ糖にもどる。乳酸量が多いと処理
     できず筋肉にたまって筋肉が硬くなる
    乳酸を早く代謝させるにはじっと休んでいるより、ある程度の運動を続ける方がよい。
    最大運動(VO2max)の約半分の力で運動を続けるとき、安静時の4-5倍早く乳酸を
      代謝できる。
    乳酸測定器ラクテート プロ 65000円

    心拍数
     休憩時に通常180年から年齢を引いた脈をこえると要注意
     60才であれば 180-60=120 脈が120/分
     運動時の瞬間最大心拍 220-60=160 
      脈拍計 センサーの付いたベルトを胸に装着し、手首に腕時計型の
        表示器をつける。 約15000円
    貧血
     血圧が薄い状態(貧血)では同じ量の血液が流れても運搬される酸素量は著しく
     減ってしまう。通常14g/dlのヘモクロピンが血中にあるが、貧血で7g/dlになる
     と同じ運動負荷をかけたとき最大心拍数が110回/分から150回以上にはね
     上がる。脈が速くなりすぎると心臓が空回りして危険な状態におちいる。
     鉄分の多い食品
       のり、ひじきなど海藻類、ピーナッツ、カシューナッツ、大豆食品など豆類、
         シジミ、アサリ、貝類、レバー、卵、パセリ、ほうれん草など緑黄色野菜、
         カレー粉、ココア、ソースなど
  2.気疲れ
    パーティの対人関係、集団行動、岩場やガレ場の通過
  3.シヤリバテ
   空腹で全身に力が入らない。急性の低血糖状態
   回復させるには消化吸収のよい単糖類(ブドウ糖、果糖など)
   次にデンプン類の多糖類、脂肪やタンパクの多い食品はエネルギーになるまで
    時間がかかる

2. 暑さの生理学
  人の体熱は常に一定量の産生が行われ、体温を維持している
  熱産生をたくさんする臓器は代謝が活発な肝臓と脳である。それに加えて筋肉が働くと
  筋肉からの熱  産生がこれに加わる熱産生には十分なエネルギーと水と酸素が必要
  でその熱を血液にのせて体温が維持されている。 運動時に熱産生が多すぎると体の
  表面から熱を輻射と空気伝導で逃す.気温が上がると、これでは足りずに汗を蒸発
  させ、気化熱で体温を下げる。気温が下がると体温の下がるのを防ぐため、体表の
  血管を吸収させて血流量を減らして放熱を少なくする。
  熱産生が多いと放熱により体温が上がり過ぎないように調節している
   放熱を進めるには
    1.抹消血管がひろがり、体表面を通過する血液量を増やして輻射や伝導により
       放熱する
    2.汗腺がひらいて発汗をうながし気化熱により体温を下げる
    3.呼吸するとき、はく息と共に熱をはきだす

 暑さに慣れる
  真夏2000m級の登山には暑さに慣れる暑熱順応をしておくとよい
  暑さに慣れる方法は、まず、1日15-20分炎天下で運動を始め、少しづつ運動時間を
   長くしていく。約1週間から10日で暑熱順応ができる
  暑さに慣れた体は
    1.放熱のための皮膚血管が大量に流れやすくなる
    2.暑くても血液を変動させずに、心拍数を増加させ皮膚血液を維持できる
    3.10日間の訓練で約2倍の発汗量が得られるようになる
    4.全身に均等に発汗するようになる

 暑さ対策
  衣服
   3000m級の日本アルプスと2000m級、或いはそれ以下の山では体感温度は全然
    異なるむれない通気性のよい乾きの早い素材を選ぶ
   化織製でメッシュの網シャツアンダーウエア
   化織製の襟付きのシャツ(半袖、長袖)
 頭部(脳)の冷やし方
  熱中症防止などで脳の温度が上昇しない工夫が大切で、帽子をかぶったり、
   濡れタオルを首に巻くと効果がある前頸部(ノドの両脇)には脳に入る太い動脈が
   走っており、体温が高いときにこの動脈をぬれタオルで冷やすと効果がある。又、
   脳だけでなくソケイ部(太ももの付け根)や腋の下なども動脈が通っている
 日焼け
  日焼け防止には帽子やタオル・バンダナを使う。他に日焼け止めクリームをぬる。
  行動中、汗で流れるので時々ぬりなおす

 水分補給
  夏の暑い日には1日1-3Lの汗をかく。脱水症状になると発汗が少なくなり、体温上昇、
   血液循環が悪くなり、尿量が減り膀胱炎を起こしやすい。気温より湿度の高いことが
   体温調節の敵である

 水分の摂取
  朝、水分を多く含んだ食品を食べるのがよい
  1日に摂取する水分は一般的に1.5-2L
  人体に1日に入る水分
    食事   800-1500ml
    飲水   飲んだだけ
    代謝水 300ml  糖が分解されエネルギーに変わるときにでる水分
  1日に出る水分
    排尿    1000-1500ml
    皮膚(しみだし)   350ml
    発汗    500-700ml  時には数Lになる
    呼吸    100-300ml
    糞便    100-200ml 下痢をすると数Lになる

3. 発汗の生理学
  ある一定の気温になると気温調節の中心は汗をかくことになる
  発汗の限界値は1時間3L,1日12L
  体重50Kgの人が1.5Lの汗をかくと血漿量(血液の液性分)が減り出血多量と同じ
    ショック状態になる
  汗と共に失われる電解質(食塩など)で重要なのがナトリウムで1Lの汗をかくごとに
    約3gの食塩が流れる
  日本の夏山でかく汗の量を2-3Lとすると、いつもより食塩を5-10gぐらい補給をすれ
    ばよい胃から腸に流れ込む水分は1時間に最大約800mlである
   1.温度が高いものは通過が少なく5度C前後の冷水が最も通過しやすい
   2.糖分が含まれると著しく通過量が減少し、10%の糖液で半滅し、40%の糖液で
     20%おちる
   3.塩分が含まれるとさらに通過量は減少する
 従って緊急に水分補給するには。冷たいただの水がもっとも通過しやすい。
 スポーツ飲料では麦芽デキストリンのグリコースポリマー使用のものがよい

4. 寒さの生理学
  寒くなると手足の血管は収縮し、表面温度は著しく低下し、やがては凍ってしまう。
  そうならないよう に、ある程度の温度低下は続くと抹消の血管が今度はひろがり、
  血流が多くなって手足の温度を上げていく。しかし放熱が多くなると動脈血の温度が
  下がり体の中心温度が低下して凍死に近づく。
  すると再び体表の血管は収縮しからだの中心温度の低下を防ぐ。
  人の体はこのように抹消組織を守りながら、一方では生命維持のための体の中心
   温度を保つように血管の拡張、収縮が繰り返されている。
  これが「寒冷血管反応」と呼ばれ体温維持のための重要な生命活動である。
 凍傷の予防
  血液の流れをスムーズにするため、足首などを強く締め付けないこと。
  外に露出した皮膚を絶対に濡らさないこと。
  瞬時に凍傷になる。又、登山靴や靴下、手袋が濡れて長時間、低温の中にいると重度
   の凍傷になる
 凍死(低体温症)の予防
  動脈から熱が奪われることがもっとも体温低下につながる。
  動脈が体表を走っているところ、外から触れて脈の拍動を感知できるところの保温に
  留意すること。首の頚動脈、腋の下、肘の内側、手首、ソケイ部(大腿動脈)、膝の裏、
  足の甲首や膝の裏などは寒さを感じにくいので保温に注意する。
  静脈だが肛門周囲は静脈が密集して体の中心温度が下がらないようにしている場所で
  座るときに下に断熱するものを置くと体温が奪われない。頭の骨の外側で「こめかみ」
  部分のところには、浅側頭動脈が表面を走っている。頭はトータルで放熱が多く体全体
  が放熱する量の3分の1は頭から失われ  る。頭は温度の変化に弱く、寒すぎても暑
  すぎても脳の障害が最初にあらわれる。凍死の前に幻覚など脳の障害が見られることが
  多いといわれている。

5. 高山病
  1991年カナダのレイク・ルイーズでのハイボキシア国際会議で高山病が定義された  
    高所脳浮腫(こうしょのうふしゅ)   脳に水分がたまっているもの
    高所肺水腫(こうしょはいすいしゅ)  肺に水分がたまっているもの
    急性高山病               上記のごく初期のもの

   急性高山病
    頭痛、吐き気、生あくび、胸がムカムカする(嘔吐)、疲労、脱力感、めまい、ふらつき、
      夜眠れない
   高所脳浮腫
    脳の部分に必要以上に水がたまり、頭の中の圧力が高まって激しい頭痛と吐き気
    (脳圧亢進症状)がする。極度の疲労感を伴い、意識が混濁して異常な行動や幻覚
    が出て、うわごとや意味不明のことをしゃべるようになる。真っ直ぐに歩けず千鳥足
    で歩いたり、ふらふらしたりする(歩行漫錯)という症状もでて、失禁をするようになる。
    これらを小脳症状というが、大脳皮質よりもさきに小脳が影響を受けやすいため
    意識障害よりも小脳がつかさどる運動神経に失調をきたす。
   高所肺水腫
    肺に水がたまった状態で、症状としては呼吸困難があげられる。息苦しくてハアハア
    と息をするようになる。寝ている姿勢では苦しくて、座り込ん姿勢で呼吸(起座呼吸)
    をする。肺に水がたまると、座っているほうが呼吸しやすいからである。さらに血痰
    を伴ったせきを続けざまにしたり、胸苦しさ(胸部の圧迫感)、胸が痛い、息をすると
    ゼイゼイと音がするというような症状を呈する。さらにひどくなると、唇が紫色
    (チアノーゼ)になり、意識障害がおこりやがて昏睡状態におちいる。
   高所網膜出血症
    高山では真昼なのに暗くなり目がかすんであたりが見えなくなることがある。
    これも高山病のひとつで眼底出血をおこしている。水晶体がスリガラス状態になって、
    視野がぼけたり、視野が狭くなって(視野狭窄)ある一定の方向が見えづらくなったり、
    視野の中に黒い点があらわれる。

 トレッキング中の高山病予防策
   1.睡眠、休養を十分にとり、体調を整える。
   2.行動中はまめに水分を取り、
      尿をひんぱんにだす。
   3.過度の飲食を慎む。禁煙を実行する。
      ニコチンが凍傷を生む。
   4.衣服を着脱し、保温、発汗を
      コントロールする。
   5.マイペースで歩き、高所ではゆっくり登る。
   6.3000mまで登ったら1日停滞する。
 高山病にかかった時
  低地に下山するのが最良、程度が軽ければ鎮痛剤
      を飲んだり、酸素を吸ったりするほか、
  利尿剤の「ダイアモックス」などで呼吸を活性化
      させて症状を改ざんさせることができる。

        引用文献
           「中高年登山者のための生理学」 塩田純一     本の泉社
           「中高年のための登山医学」    大森薫雄     東京書籍
           「健康と山の食事」          大森薫雄     山と渓谷社
           「登山の運動生理学百科」      山本正よし    東京新聞出版局
           「高山病、ふせぎ方・なおし方」   P・ハケット    山洋社
           「低体温症と凍傷、ふせぎ方・なおし方」  J.A.ウィルカースン 山洋社