雨水貯溜システム
                          安宅 武一     28年商

 昨年の夏は本当に暑かった。六月下旬から八月上旬にかけてさっぱり雨が降らず、庭はからからに、植木はどれもこれも悲鳴が聞こえるようであった。幸い春に完成させた「雨水貯溜システム」(何と大袈裟な!)がおおいにものを言って、朝晩の散水、害虫駆除のための農薬散布、網戸の洗浄、玄関の掃除等に水道の水を殆ど使用しないで済ますことが出来た。東京の過去十年間の年平均降水量は1460mmである。月平均では最も多い月は九月で、193mmの雨が降っている。次は六月と十月が同じで181mmと続く。台風による大雨、梅雨そして秋の長雨とそれぞれ納得できる。我家の屋根の面積は、平面図で101.37m2である。従って屋根に振る降雨量は年間148m3ということになる。驚くべき量である。我家の月平均使用量は約18m3である。従って九月中に屋根に降る量の方が多い。また、一年間に屋根に降る雨の量は、年間の水道使用量の約70%に相当する。これが全部桶を伝って下水に流れているわけである。神戸に住む友人の話では、あの震災のとき、一番弱ったのは水道が止まったことだそうだ。幸い家屋の被害には遭わなかったが、水がないことには生活が出来ない。炊事は当然のこと洗面、洗濯、トイレがストップ。友人の毎日の日課は往復15分もかけて、何回となく水を汲みに行くことであったそうだ。屋根に降り注ぐ雨水を利用するには桶を伝って落ちてくる雨水を途中から方向を変えて大きなバケツに受け、溜めておけばよい。至極簡単そうなことだ。だが細部を詰めてゆくと種々の工夫が必要であることが解ってきた。
     @垂直に落ちてくる雨水をどうやって方向を変えるか。
     Aどの辺りから(地表から何cmの高さから)変えるか。
     B導水桶をとりつけるにしても、既存の桶との関係をどうするか。
     C何に貯溜するか。容量はどの位のものを用意するか。
  家内の友人で、これを見事に実現したお宅があるというので、二人して見学にお伺いした。大いに参考になった。日曜大工センターの桶のコーナーには実に便利な物を売っている。エルボと称する曲がった継ぎ手である。方向を変えるにはこれが必要であったのだ。70リットルの蓋付のポリペール(大型バケツ)も六個購入し、一ヶ所に二個づつ据え付けた。雨が降ってくると既存の縦桶を少し下げて、隙間を作りエルボを付けた導水桶を取り付ける。垂直に落ちていた雨水は、たちどころに方向を変えポリペールに溜まり始める。激しいにわか雨なら70リットルのポリペールが六個とも一杯になるのに30分もかからない。実際にやって解ったことは降り始めの雨水は、非常に汚れていることである。空気中の埃も、屋根のごみも全部運んでくるからだ。が、やがて清澄な真水に変ってくる。飲むわけではない、これで十分なのだ。従って雨水貯留システムは、雨が降り出したからといって慌てて稼動させる必要はない。汚れた雨水は下水に流しておいて、やがて綺麗な水に変わって来るまで、ゆっくり構えていてよいである。いずれにしろ作業には雨でびしょ濡れになる覚悟は出来ているのだから。