昨年の8月大学生の娘と二人ノルウェーを旅行した。この旅行の主な目的は、以下の3つであった。
@ 周遊券を使って、世界最大と言われるソグネフィヨルドを観光すること。
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ソグネフィヨルド峡谷 |
A プレーケストーレンに登り、断崖絶壁の頂上から600メートル眼下のリーセフィヨルドを眺めること。
B オスロ郊外にあるムンク美術館の名画『叫び』を鑑賞すること
夫が仕事の都合で急遽参加できず、娘との不安な2人旅となった。@とBは、問題ないとしても、Aは、往復4時間のやや健脚向きの登山である。体力には余り自信がないし、遭難の恐れもあるし、人気のない山道はこわい・・etcと気をもんでいた。しかし、安全面でそのような心配は無用だった。旅行中、こわい思いなど一度もしなかった。英語も通じるし、交通機関は正確で、非常に旅行のしやすい国であった。人々もフレンドリーとはいえないまでも、親切である。ただ、ひとつ難を言えば、物価が非常に高い。ガイドブックにもそうは書いてあったが、"私はやりくり上手だから、平気!物価が高いなんて言ってる人、旅慣れてないんだ!"とたかをくくっていたが、甘かった。ビール350cc缶が、400〜500円前後。マクドナルドで昼食をするとセットで、1人、1300~2000円。レストランに入ると、たいした物を注文しなくても、1人確実に5000円はする。娘と私は、ダイエットを兼ね夕飯を抜いたり、スーパーで缶詰を買ったりと、みじめな食生活を送ることとなった。又、お土産も例外ではなく、手頃な物がない。いつもは、旅行に出てつい無駄なものを買ってしまう私だが、今回はお土産代も節約できた。ノルウェーでは、福祉や社会保障制度充実のために、税金が高く、それが物価に反映されている。すばらしいことだが、私は、日本の物価の安さが、少々なつかしかった。
さて、ソグネフィヨルドは、世界最大の名に恥じず、スケールの大きいすばらしいフィヨルドである。水は青く澄み、奥行き深く、繊細で、神秘的な印象を与える。交通のアクセスも良く、楽しく回ることが出来た。
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ソグネフィヨルドのフェリーより |
散々だったのは、Aのプレーケシュトーレンである。天候を考え、近隣のスタヴァンゲルという街に3連泊したが、連日雨で、結局雨の中の登山となった。決行すべきか否か、かなり迷ったが、麓までバスで訪れると、皆黙々と登っている。もし、私達が今引き返したらきっと、生涯後悔すると思い娘とも相談して、登ることにした。しかし、登山道は、連日の大雨で、小川と化し、山肌から、どんどん雨水が滲出してきている。日頃は登山者が避けて通る岩の上を飛び石の様に伝って登るのである。帰りにはそこがもっと広い川になってしまい帰れなくなるかもしれないという恐怖心を抱きながら登っていた。周りには登山者がかなりいて、"万一遭難しても、頂上の岩畳にヘリコプターが救助に来るだろう。"と楽観的に思ったり、「自己責任」という言葉が、頭の中でグルグル回ったりしていた。雨の中の登山は、滑りやすいし、私にしてみれば、かなりの困難を要したが、どうにか頂上にたどり着くことが出来た。雨は弱くなったり強くなったりしたが、日本から、わざわざ登りにきた私達への情けなのか、頂上にいた10分位の間、雨がやみ、視界が悪いながら、600メートル下のフィヨルドを見ることが出来た。
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断崖絶壁に立つ! |
視界が悪くとも足のすくむような眺めだが、晴れていたらどんなに素晴らしいだろう・・残念!しかし一瞬でも見ることができ、危険を冒した苦労が報われたと思った。機会があれば、是非もう一度、今度は夫と一緒に、天気の良い時にチャレンジしてみたいと思う。
旅行の最後は、オスロのムンク美術館の絵画鑑賞で優雅に締めくくるはずだったが、思わぬことからこの夢は叶わなかった。忘れもしない8月24日の午前中、ムンク美術館に強盗が入り、名画『叫び』と『マドンナ』が強奪されたのである。私達が、午後1時過ぎ、何も知らず地下鉄駅から降りて、美術館の前にたどり着くと、現場は、騒然としていた。
テレビのレポーターが、実況中継し、カメラが回っていた。大勢の報道陣と野次馬、観光客がいた。美術館の入口には、警察のロープが張り巡らされ、現場検証らしきこともやっている。日本でいえば、国宝の仏像がなくなったという感じなのだろう。ついてないなあ・・と思いながらも、こんな歴史的場面にいあわせるチャンスは、日本にいてもなかったので、しっかり野次馬に徹した。この強奪事件は、その日のトップニュースとなり、特別報道番組を延々と放送していた。結局、『叫び』は、4枚あり、オスロの国立美術館にも展示されているとの情報を得て翌日、鑑賞することができた。私達の喜びもひとしおだった。
悪天候中の登山といい、強奪事件による美術館閉鎖といい、ついていなかったが、これらのおかげで、今回の旅行がより面白い、思い出に残るものとなった。旅行にはハプニングがつき物だが、ハプニングもまた、旅行の醍醐味である。
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