文化講演会−要約
平成17年4月10日(日)
講師 早稲田大学副総長兼理工学院教授
村岡 洋一氏
於:成美教育文化会館
第11回定時総会に先立って恒例の文化講演会が開催された。講師は早稲田大学副総長兼理工学院教授で、現在、21世紀COEプログラム「プロダクティブICTアカデミ−プログラム」の拠点リ−ダ−として活躍中の村岡洋一氏が講師になって「大学からの企業〜夢かまぼろしか〜」という大きなテ−マについて、約70名の会員、一般市民を前に、大学側がどういう目的をもってベンチャ−を起こそうとしているかを簡潔に1時間ほどお話しいただいた。
大学の使命とは一体何かというと、簡単に言えば、今いる学生にどれだけいいことができるかということだ。学生が自分の将来をいろいろな観点から試してみるために学生にいろいろな機会を与える。その機会とは、勉強、研究、スポ−ツまたは仲間作りなどたくさんある。学生はその中からどれかを選び、それを試してみる。失敗してもそれがいい経験になる。その1つの機会がベンチャ−だと思っている。
では、何で大学は研究をやるかというと、研究が楽しいからだ。私はそう思っているし、おそらくこれは正しいはずだ。ただ、大学は砂漠の中にあるわけではなく、社会の中で存在している。従って、大学は研究の成果を社会に役立つものにしなくてはならないし、世間もそれを願っている。早稲田の場合大学が取得した特許は約400ある。その実施料は年間約2000万円だ。また、大学発のベンチャ−の数は今日時点で約70あり、この数は早稲田が一番多いといわれている。
研究には費用がかかるが、早稲田の場合、学生が納付した授業料は全額学生に還元することにしているため、この研究費は国や企業など外部から獲得している。その額は年間約60億円だ。研究費の大半は理工系の研究に使われるが、現在理工系の教員が約200名だから、1人あたり平均すると約3000万円だ。教員はこれらの費用を効率的に使っていい研究をやりたいし、大学側もそうなってほしいと願っている。このためには教員や学生に刺激を与える必要があり、その1つの刺激策がベンチャ−だ。また、オ−ル早稲田のような均一の組織は良くないので、他の大学や他の組織から客員教授という形で入ってもらって、違った文化や考え方などに接してもらうようにしている。今では客員教授は約500名にもなっている。
ベンチャ−はそう甘いものではない。特にいい研究テ−マは大学の研究所ではなく、企業の現場にあることを学生には理解してもらいたい。我々教員にとても企業と一緒にやることによっていい研究テ−マに出遭うものだ。我々教員は大学の研究所に閉じこもってばかりいないで、俗にいう"死の谷"を乗り越えていかねばならない。そうしないといい研究テ−マには巡り合えない。
早稲田は学生ベンチャ−の育成のため施設やノウハウを提供したりして、いろいろな形の支援に行っている。学生も自ら作り運営する"ザイヤドットコム"でベンチャ−に関する情報交換をしている。また、べンチャ−を成功させた学生や卒業生をみると、当り前のことだが、学生時代に勉強をきちんとやり、技術をきちんと身につけている。
最後に私がベンチャ−に関係してみてわかったことは、米国と比べて日本は頭のいい人が多い過ぎることだ。そのため、いいアイデアや提案もこの関門を通り過ぎた時には丸々に摩滅した石に変わってしまう。ベンチャ−を数多く育てるためには、若い人からのアイデアや提案については最初からNO!といわないことが大切だ。私は学生からの提案には決してNO!と言わないようにしている。皆さんも是非そういう姿勢で臨んでもらいたいと思っている。
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