今年の「体育の日」は10月8日でしたが、朝、新聞のテレビ欄を見て目をむきました.「NHK総合」がなんと、朝8時半から夕方6時まで「食料プロジェクト特集-生中継ふるさとの食にっぽんの食」で埋められていたからです.しかも夜は夜で「発掘!日本人の食卓、長寿のレシピ大研究」.教育テレビも負けてはいません.夜8時から11時まで「今日の料理」「和菓子」「食べること・作ること」.
幸か不幸か、米英によるアフガン空爆がはじまって、この関連の特番のため予定の番組は一部変更されましたが、文字通りNHKは食、食、食のオンパレード. 「体育の日」はどこかにふっ飛んでしまいました. もともと食べる番組は民放が年がら年中、放映してきたものです.ラーメンやそばの名店を紹介したり、温泉や老舗旅館を訪ねて地方のかくれたメニューに光を当てたり.「料理の鉄人」「突撃!となりの晩ごはん」「どっちの料理でショウ」など、各局の看板番組も登場しました.それにつれてグルメ番組専門のタレントが生まれ、「タベタレ」があちこち食べ歩いては「おいしーい」「うまーい」と素朴なることばを連発するようになったのです.この商売、みかけよりはずっとハードで、「タベタレ」の寿命は二年、みんな体調を崩して“戦線離脱”を余儀なくされるといいます.「廻しても廻してもパクついてるバカテレビ」.
外国からやってくると、日本のテレビには辟易するそうです.チャンネルを廻すとCMが大きな口にチョコレートを入れている.次を廻すとドラマだが、茶の間で一家が食事中.その次を廻すとバラエティ番組でタマネギが不眠を治すといって数人の出演者がいっせいに食べている.ニュース番組だって油断できません.すぐ食べる話題になってしまうのです.
数学者でテレビタレントでもあるピーター・フランクル氏がいいました.「日本にくる前、ヨーロッパに20数年いたけど、テレビで料理番組をみた記憶がない.ハンガリーの母に電話しても、日本のお母さんのように「きちんと食べている、栄養のバランスを考えて、しっかり食べなきゃダメよ」なんていわない.日本人って、すごく食へのこだわりが強いんだと思う」.
洋画をみていると、たしかに食べるシーンはほとんどありません.ストーリーとして、どこかで食べなければならないはずなのに、まるで食べない.イギリスで珍しく「食品フェア」というのが聞かれたことがありましたが、取材にやってきたのはアジア系とか南欧の記者で、地元のイギリス人ジャーナリストはひとりもこなかったという話があります.中欧から北欧にかけては、食文化にはそれだけ恬淡としているということでしょう.
NHKまで食文化にどっぷり漬かるようになって、日本のテレビはますます食って食って食いまくることになりましたが、不思議なことに視聴者からクレームはほとんどない.「若者が電車の中でカップラーメンをすすってる.テレビのせいだ」「テレビのひどい食事マナーをみて、うちの子が真似して困る」というのが少数だけ.逆に、この10月初めの「フードバトル・史上最強の大食い王決定トーナメント」など22.7%の驚異的な高視聴率をマークしました.
結局、日本の視聴者は食番組で、一種の安らぎ、癒しの境地に浸れるのでしょう.この国ではテロがあろうと、地震が起きようと、グルメ番組は永遠に不滅です
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