これからどうする私のがん対策
                          桑田 暢夫     26年政経 

 昭和26年早稲田を卒業して、私を含め5人が三菱銀行に入社した。現在生存者は私独り。青木君は肺、松本君は胃、天野君は肝臓、和田君は食道、夫々がんで60代後半から70代前半にあいついで世を去った。残った私も、1999年の夏、胃がんの摘出手術を受けた。幸い胃の3分の1が残り、術後も6ヶ月程は食事、排便等で多少は苦労したが、その後日常生活には殆ど支障なく、酒も飲めるようになったし、がんと闘うと云った意識は全くなかった。ただ驚いたのは、術後首から肩、胸腹部にかけて老人特有のからだつきに一変してしまったことである。淋しかった。今もって、風呂あがりに鏡を見るのがいやである。昨年の文芸春秋9月号。がん体験医の患者学‐竹中文良、黒木登志夫、川越厚一の中で竹中医師の次の言葉、ご意見に赤線を引いて、幾度も読み返し、考えさせられた。“日本のがん治療はどんどん進歩しています。ただ第一線の現場で働いている先生方の視野がちょっと欠けていると思うのは、年令の対する配慮なんですね。80代の患者さんに40代の人たちと同じ治療をすることによって、かえって非常に苦しめるだけで、放ってあければ4、5年は生きられたのに、死期を早めてしまうこともある。平均年齢を越すぐらいになったら、あまり過激な治療はしない方がいいと。私は今、自戒を込めて思っています。私は胃がんの体験者として、手術の精神的、肉体的な負担がいかに大変なことかを味わったし、前述の通り一気に歳をとったようにやつれてしまった。私は既に喜寿を超えて、竹中先生のお説通りに過激な治療はもう無理だなあ、とつくづく感ずる今日この頃である。
 これから私のがん対策=健康法 
一、血液検査は今までどおり年1回実施するが、がんの精密検査は受診しない。たとえ、がんと診断されても過激な治療、即ち、がんの三大治療といわれる手術、放射線、抗がん剤点滴治療は受けないと決めたのだから。
一、頑張らない。好きなことをして楽しむ。これが、ストレスのない一番のいきいき健康法と思うから。現在の医学では、がんの再発を防ぐ決定的な方法はないようである。大酒飲みでも、一日30本以上の喫煙者でも長寿で元気な人もいるし、摂生につとめ励んでもがんにおかされる人もいる。人それぞれの寿命だと思う。70歳まで懸命に働いてきたし頑張ってもきた。もう頑張らない。好きなことをして楽しみたい。寝たければ寝る。食べたければ食べる。旅をしたければ旅に出かける。好き放題、心のおもむくままに心地よい一刻一刻を、一日一日を楽しみつくしたい。“不良老年、愚妻を欺かず”を願っている。