太極拳の一考察(その歴史と効果)
 船尾 和三  26年商卒 太極拳部会長

  9月13日(金)NHKで、中国の観光人気スポットの一つ桂林、「天下の絶景への誘い」が放映された。薄墨の山水画のような奇岩奇峰の間を滔々と漓江、河畔で悠久の歴史の流れに沿うごとく、太極拳を演舞している人達が写し出され、その光景になんとも言い知れぬ清々しい感動を受けた。
 太極拳はもともと武術であり、芸術であり、哲学を含んだ心身の健康法と言われる。動きは丸くて柔らかく、ゆったりと途切れることなく続き、その手足の動きが太極図(北宋の周敦
が工夫した図形)に似ていることから太極拳と呼ばれるようになった。
 起源は西暦1300年、北宋末期の武人「張三豊」が、鶴と蛇の格闘を観察して太極拳の原案にしたとか、西暦1600年明末期の武将「陳王庭」が太極拳を考案した始祖とか、種々の諸説があるが何れも定かではないようだ。
 流派は大別すると、楊式、陳式、武式、呉式、孫式の5通りで、演舞方法は、108式、88式、66式、48式、32式、24式の6通りの他、多数の型があるとされる。西暦1956年新中国以後、毛沢東は国民の健康増進を計る為、各派、各演舞を「簡化太極拳二十四式」に纏め、太極拳基本と制定し全国に広めた。
 一方日本国内には、各流派を基本にする武術太極拳や気功太極拳などがあり、約百万人の太極拳愛好者がいると言われる。中でも大きなグループの一つに日本健康太極拳協会があり、「楊名時」が師家である。
 彼は幼少時に武術全般を習得し楊式太極拳を伝授されたといわれ、戦前日本に留学し京大在学中から柔道や空手を精進した。西暦1960年に、中国制定の「簡化太極拳二十四式」に工夫をこらし独自のスタイルを創始した。いわゆる気功医療体術の「八段錦」であり、調心、調息、調身の気功3要素を充たす「健康太極拳二十四式」である。医療体術の効果として3要素は下記の通りである。

  調心; 太極拳は動く禅と言われている。太極拳を続けることでストレスが解消され、
       焦らなくなり、眠れるようになり、集中力を高める。
  調息; 1分間の望ましい呼吸数は座禅や丹田呼吸法と同じ4回である。
       従って通常1分間17回の呼吸より酸素摂取の効率が優れる。
  調身; 動きが上虚下実で、腰部分と下肢の抗重力筋を鍛え、高齢になっても
       立つこと歩くことがしっかり出来る。足関節や膝関節の痛みが消え、片足立ちで
       バランス感覚が良くなり、転倒を防ぐことが出来る。

 私が太極拳に興味を持ったのは約20年前のことであるが、近年頚椎部損傷で手術を受けた後に、健康維持のため本格的に気功太極拳の稽古を再開し、毎日が元気で居られるのはそのお陰と信じている。
 冒頭で述べたように、太極拳はもともと武術であるから攻撃と防御の組み合わせであり、攻撃と言い防御と言い紛れもなく相手とのコミュニケーションになる。相手といっても仮想の相手は人間とは限らない。あるときは大自然であり、あるときは地球であり、あるときは銀河系であり、あるときは虚空であるかも知れない。 
 私たちが生きていく大きな目的として、虚空と一体になろうとのリハーサルが太極拳であると確信し常に精進できればと考える。稽古終了後に皆さん一人残らず爽やかな実にいいお顔になって居るのに気づく事があり、これが虚空と一体となり気が充満した不思議な現象と思っている